カウンセリングで伺うお話の中で、「離婚」「浮気」「セックスレス」「心のすれ違い」など、夫婦問題についてのご相談は、とても多くなっています。
こうした夫婦問題の解決に役立つヒントをお届けする連載、その8回目をお届けします。
◎浮気を問いつめた時、相手に言われて驚く「子どもが生まれた頃の話」
例えば、「夫に浮気をされた」という苦しい思いのご相談を受ける時。
どうして浮気したのか!と夫を問いつめると
逆ギレした夫から、過去の出来事に対する不満をぶつけられた、という話を伺うことがあります。
その中で、とても多いのは
「子どもが生まれた頃、全くかまってもらえなかった」
という不満です。
自分たちの子どもが1~2歳になって、ようやく手が離れ始めた時など、比較的新しい過去の時もありますが、
時には、すでに子どもが大きくなっているのに、5年、10年前の話をされることも。
それが昔であるほど、言われたほうは、今更なんの話だ!、という気持ちになりますよね。
でも、その時、「今更なによ!」とか「そんなこと理由になるか!」と反発したとしても、
心の奥底では、夫のその言葉が響いて、残ってしまうことがあります。
そうした場合は、頭で否定しても、心の中で、夫の指摘は「思い当たる節」がある、ということなのです。
それは、浮気の正当な理由には、なりません。
ただ、もし、あなた自身に「思い当たる節がある」があるなら、その気持ちを整理することがとても大切になってきます。
わざわざ、夫が今、そんな話を持ち出していることを考ると、
そのことで、夫の気持ちを知る道を開くきっかけになることがあるのです。
◎子どもを育てる時期は、他に目を向ける余裕はない
子どもが生まれた時、そして、子育てがある程度、楽になる歳まで、母親は本当に大変です。
私の妻(カウンセラー・池尾千里)は、子育て中のことを振り返って、こんなことを言っていました。
「仕事は、家に帰ればOFFになるけれど、子育ては、いつOFFなのかわからない。
ONとOFFという切り替えがなくて、その感覚が苦しかった。」
この感覚は、子どもを産み、育てたことがない人にとっては、わからないものだと思います。
そして、何より、生まれたばかりの赤ちゃんを育てる苦労。
まさに、24時間体制。
睡眠時間はほとんどなく、普段の家事もこなさなければなりません。
これが、実家などの援助がなかった場合は、尚更のことです。
それが、子どもによって違いがありますが、1歳~2歳になる頃まで続きます。
そして、その後も、小学校に上がり、ある程度、自立していく時まで、なんらかの苦労は続くのです。
男である私が、この話をさせていただく時は、いつも、「体験したことのない」後ろめたさがあります。
でも、こうして書かせていただくのは、この話を踏まえた上でないと、先に書いた「思い当たる節」の話を進めていくことができないからです。
「子どもを育てている時は、他に目を向ける余裕はない」
子育てをした母親なら、当たり前の話。
ところが、それを言われた妻は、それを素直に感じることが難しいのです。
「思い当たる節がある」というのは、言い換えれば、
「私が悪かったのかもしれない」ということです。
なぜ、「当たり前の話」なのに、「私が悪かった」と思ってしまうのでしょう。
ここに、「思い当たる節」の原因があります。
◎「子育てはやって当たり前」という観念
その原因の大きなひとつは、「子育てはできて当たり前」という風潮が日本にはあるからです。
まずは、自分の母親が、夫の母親が、そうやって苦労してきたから。
それを見て育った女性は、自然にそれを当たり前と感じていきます。
そして、夫や、自分の、夫の父親もそう思っています。
これは、「当たり前」の思いですので、意識している人も、無意識の人もいますが、
どうやら、ほとんどの人が、この思いを心の底に持っているようです。
心理学には「観念」という言葉があります。
「~せねばならない」という、思い込みのことですが、
これは、深層心理に眠っていることもあります。
「子育ては当たり前」というのは、観念の一種であると、私は思っています。
すると、「子育ては大変だから手伝って」と言いにくい心理が働きます。
場合によっては、実の母親から、あるいは、夫の母親から
「子育てはやって当たり前」
「私もやってきたのだから、あなたもやれるはず」
と言われることもあります。
夫や、父親からも、このセリフを言われることがあるかもしれません。
そうすると、ますます、「子育ては大変」「子育て中は、夫にかまっている余裕がない」とは思えなくなってしまいます。
この思いは、先に書かせていただいた
「私が悪かったのではないか」という思いに直結します。
◎夫の心の中に隠れている気持ち
最近では、子育てに理解してくれたり、一緒に育てたり、手伝ってくれる男性が、たくさんいます。
ところが、こうした男性の心にも、この「子育ては、やって当たり前」「子育ては、妻がやってくれるもの」という観念がある場合が多いのです。
観念というのは、深層心理にもある、と書かせていただきました。
表面意識では、「理解している」つもりでも、この観念はとても大きく、男性の心も縛っています。
例えば、仕事で疲れて夫が帰宅したとします。
家では、妻が生まれたばかりの赤ちゃんと添い寝をしている。
食卓には何もない。
頭では、わかっています。
妻には自分の夕食を用意する余裕もないのだと。
でも、行き場のない怒りが出てくる。
こんなにがんばって働いて、疲れて帰ってきたのに、食事の用意をしてくれていない。
辛い事があっても、一生懸命、がんばって働いているのは、お前と子どものためなのに。
そう思いながら、ひとり、食事の用意をして、食べる。
ひとりぼっち、と感じてしまう。
増えてきたとはいえ、普通の男性の感覚では、理解が難しいことがあります。
例え理解があっても、仕事がハードワークだったり、大きなプレッシャーやストレスがかかっていたら、夫のほうも余裕ありません。
すると、妻の余裕のなさを受け止めることができにくくなります。
◎まずは、自分を「ねぎらい」「いたわり」「認めて」あげましょう
ここで書かせていただいたのは、ひとつの例でしかありません。
実際には、いろいろな形や状況があります。
夫が全く理解も、協力もしてくれなかった。
なのに、「放っておかれた」なんて、ひどすぎる。
共働きで、子どもにすら、時間を取ってあげられなかった。
夫になんて、そんな余裕はなかった。
専業主婦で、十分時間があったはずなのに、私に余裕がなかった。
いろいろなケースがあるでしょう。
でも、誰が聞いても「あなたは悪くない」という状況でも、
女性は、「私が悪かったのではないか」と思ってしまうようなのです。
大切なのは、「夫婦問題は、どちらかが100%悪い」ことは、稀である、ということ。
必ず、お互いの何らかの要素がからんできます。
カウンセリングで、こうしたお話になっていく場合、
「まずは、自分を「ねぎらい」「いたわり」「認めて」あげてください」
そうお話させていただきます。
場合によっては、本当にひどい事を夫にしてきた、
ひどい言葉を、冷たい態度を取ってきた。
そう言われる方もあります。
例えそうであっても、「しかたがない理由があった」のです。
明らかに、夫が悪い。
私は、本当によくつくしてきたのに。
そう言われる方もあります。
例えそうであったとしても、無意識のうちに「自分が悪かったのではないか」と思っておられる方も多いのです。
まずは、「自分で自分のことを認めてあげる」ことをしないと、今の状況を受け入ることが難しくなります。
なぜなら、自分のことを認めてあげないと「思い当たる節」は、「私が悪かった」に直結してしまうからです。
それは、いくら頭では否定できていても、感情では「私は浮気されてもしかたがなかったかもしれない」という思いに、つながってしまうことがあります。
自分の中で、「私は浮気されてもしかたない」と思っていては、もし、夫の気持ちを知りたいと思っていても、正しく知るできません。
あなたは、本当に、悪かったのですか?
あなたは、本当に、独りよがりだったのですか?
あなたは、本当に、愛していなかったのですか?
違いますよね。
愛しているから、こんなに一生懸命だったのです。
愛しているから、今、こんなに悩み、苦しんでいるのです。
そう、思ってみてあげてください。
そして、まず、あなたがあなた自身をわかってあげようと思ってみてください。
信じてあげようと思ってみてください。
すぐにはできないかもしれません。
でも、まずは、そう思ってみよう、というところから始めてみることで、
すぐに効果はあらわれなくても、心が方向性を持つ事ができます。
心は、方向を向いたほうへ自然に流れていってくれます。
自分を「ねぎらい」「いたわり」「認めて」あげる。
それだけのことを自分はやってきたんだな、と思いながら、
やっていただけたらと思います。
(続く)
☆次回は、「夫婦問題の原因:その2『新婚時代のすれ違い』」をお届けします。(6/30配信予定)
<前回までの記事>
こちらのページをご覧ください。「夫婦のラブ・クリニック<連載目次>」
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