誰かのことを、とても恨んでいる。
あんな奴、いなくなってしまえばいいのに!と思うほど。
でも、そんな相手が本当にいなくなってしまった時。
あなたが相手を愛していたことに気づくかもしれません。
その相手は、いろいろです。
親だったり。
パートナーだったり。
近しい人ほど、今まで苦労させられたとか、ひどいことを言われたとか、そうしたことがあれば、誰だって恨みつらみを感じます。
当然のことですよね。
そんな時は、「あんな奴、いなくなってしまえばいいのに!」と感じてしまうのも、当たり前のこと。
ところが、本当にその相手が、大きな病気をしたり、亡くなってしまった時。
初めて、自分がその相手を愛していた、大切に思っていたことに気づくことがあります。
例えば、こんなご相談。
わがままで、私の言うことは一切、聞いてくれず、いつも威張ってばかりいた父。
その父が大嫌いで、家に居るのが苦痛だった。
だから、進学と同時に家を出て、就職した今も、ずっと一人暮らし。
母とは連絡を取り合っているけれど、父がいるから家に帰りたくない。
就職の時も、父に相談なく決めたら、後になって、怒りの電話。
「お前なんか、俺の子どもじゃない!。金輪際、顔を出すな!」と怒鳴られ、
私も「あんたなんか、父親と思ったことない!」と言い返して以来、口も聞いてない。
そんな父を許せっていうんですか?
「『許し』というのは、誰かに言われて『許す』ものではありません。
あなたが『許したい』と思った時に、『許す』準備ができた時にやればいいんですよ。」
私は、そうお伝えしました。
「こんな仕打ちをされたら、誰だって父親のことを嫌いになりますよね。
でも、カウンセリングに来てまで、お父さんのことを扱おうとしてるということは、実は、それだけお父さんに関心があるってことなんです。
本当は愛して欲しかった。それが本心だったりするんです。
恨みつらみが大きいということは、その後ろには愛情が隠れていることも、たくさんあるんです。」
そんなお話をしていきました。
もちろん、納得できるはずはありませんよね。
「綺麗ごと」と思います。
ところが、いろんな話を伺って、整理をする日々が続いたある日、お父さんが大きな病に倒れられました。
その時、この方は、どんな気持ちになったと思いますか?
「後悔」なんです。
「私は、どうしてもっとお父さんに優しくしてあげられなかったの?」
そう、自分を責めて、責めて、苦しみ抜いて。
「違うんです。
優しくできなくても仕方がなかったんです。
あの状況では、誰だってそうでしょう?」
そう私はお話していきます。
後悔が大きいと、自己攻撃で身動きが取れなくなってしまうことがあります。
でも、こんな時こそ、心理学を使って、自分と、そしてお父さんの気持ちを整理することが役に立ちます。
お父さんも同じ気持ちで、あなたにひどいことを言ってしまったことを後悔していること。
そして、こんなにも自分を責めてしまうほど、あなたは優しくて、お父さんのことを大切に思っているということ。
もし、言えるなら。
「ごめんね」と一言だけ、伝えてあげてください。
そして、もう一言いえるなら、「心配してくれてありがとう」と伝えてあげてください。
そうお伝えします。
「今更!そんなこと言えない!」
それはそうでしょう。でも、これ以上、後悔したくないと思いませんか?
私のその言葉が、この方の背中を押すことになりました。
病室では、ベッドで寝ているお父さんを前に、しばらくの間、何も言えなかったそうです。
けれど、弱っている父の姿を見て、カウンセリングでの私とのやり取りを、心の中で何度も繰り返しながら、やっと一言、小さな声で
「ごめんね」
と言えたそうです。
「お父さん、涙を流してくれたんです。私、そのままベッドのお父さんにしがみついて、大泣きしてしまいました。」
そう、後日、教えてくださいました。
彼女に「許し」と、そして「癒し」が起こった瞬間でした。
私たちが、誰かを恨んでいる時。
それは、仕方がない理由があります。
でも、その裏側には、相手への愛情がある。
そのことを知っておくだけで、いつか、あなたが、その誰かを「許したい」と思う時、「許す」準備ができた時、役に立ちます。
そして、「恨んでいることに苦しんでいる」ほど、あなたが優しい証拠であることも、どうか思い出してあげてください。