カウンセリングの実際 ~幸せなパートナーシップへの道~(その6)

【連載ブログ】カウンセリングの実際 ~幸せなパートナーシップへの道~(その6)

<感情を感じる>

そんな僕に対して、次にカウンセラーがやってくれたことは、「感情を感じる」ということでした。

そもそも感情を感じるというのはどういうことでしょうか。
私たちは、感情を感じるということ、また、出てきた感情をどのように扱ったらいいのかをほとんど学んでこないで大人になっています。
我慢すること、周りの期待に応えることがいいことだと幼心にしみ込んでいるから、感情の出し方がわからないのです。

例えば、小さな子どもが両親とともに新幹線に乗って家族旅行にいくとしましょう。子どもは初めて乗る新幹線にウキウキで、運転席から車掌室、食堂車と大冒険に出かけたくてワクワクしています。ところが、親からは「じっとして座ってなきゃだめ!」と叱られるので、しかたなく我慢して座席に座っていたとしましょう。
すると、目的地について新幹線から降りた時には、頭をなでられながらこう言われるのです。
「よく我慢したわね。えらいかったね。」

これはわかりやすく簡単に例にしたものですが、単純なものから複雑なものまで、こうしたことの積み重ねが「我慢したり期待に応えることが良いことだ」という心理を心の奥底に形成していきます。

この感情を感じる、ということと感情的になる、ということとは違います。
例えば、「すぐにキレて怒ってしまう」というのは、感情的なケースです。確かに感情を表現していますが、それは感情の出し方がわからずに爆発している状態です。
また、こうした人「すぐにキレる人」ほど、悲しみや寂しさといった別のジャンルの感情については、普通の人よりも頑に表現できないという一面を持つことが少なくありません。
ここでの感情とは、ありのままに自分の気持ちを素直に感じる、ということを指します。素直に感じることができれば、それを無理にコントロールする必要はないので、感情に振り回されたり、変に抑圧したりすることなく、うまく扱うことができます。
ただ、これには内面的な成熟さが必要で、こうした感情を感じて扱えることを、僕はカウンセリングを通じて行っていったのです。

僕の場合でいえば、典型的な「両親の期待に応える長男」の役割を幼い頃からやってきており、辛いことがあっても我慢していくことが期待に応えることだと思って育ってきました。
僕は幼い頃から、悲しいドラマや感動的な映画を観ても泣くことがありませんでした。なので、自分はとても冷たい人間だと思っていたのですが、そうではなく、単に感情を我慢することを心の奥底に刷り込んでいただけだったのです。

また、奥さんの場合も全く同じで、二人姉妹の長女として、自立の道を歩んできたタイプでした。彼女はとても感情豊かで楽しければ大声で笑い、悲しければ泣くタイプでしたが、本当に苦しいことや悲しいことは決して表に出さない人でした。
どちらもキャラクターの違いはあれど、「ありのままに自分の気持ちに素直に感じる」ことが最も苦手なタイプだったのです。

この感情の抑圧は、「苦しいことを我慢する」ことから始まったものですが、「苦しさ」も「喜び」も同じ感情です。苦しい感情を抑えることは、喜びや楽しさといった良い感情も制限するようになってしまいます。
つまり、苦しみを感じないということは、喜びや楽しみも感じることができないということです。

僕たち夫婦は、相手との距離を置くという恋愛をしていくことで、苦しみや悲しみを抑えた分だけ、喜びや楽しみも抑えていくことになりました。
無人島にお互い離れて暮らしていれば、相手の島で起こっているあらゆることが距離をおいてしか感じられません。
相手が何をしていても苦しまなかった、ということは、喜びや楽しみも共有できない状態だったのです。
これが、「はじめに」でも紹介した、当時感じていた「幸せというものを知らない」ということだったのです。

気づいた心の底にある本当の気持ちを解放していくためには、この「感情を感じる」ことが不可欠になります。
カウンセリングでは、セラピー等を使って感情を動かすアプローチを様々な方法で行っていきます。
例えば、目を閉じて、想像力を膨らませて、雲の上のベッドにのってゆらゆらゆられているイメージを持つ。音楽にあわせてこうしたイメージを膨らませることで、心がリラックスしてきます。
また、自分自身の幼い頃にタイムスリップしたところを想像して、幼い自分に声をかけたり、近づいて抱きしめたりするセラピー(インナーチャイルドワーク)や、辛い思いをした人物を思い起こして、言いたいことを言葉に出したり、その人物に近づいたりする。そうして、知らず知らずのうちに心の中にしまっていた古い心の痛みを解放していくのです。
こうしたセラピーを受けて行きました。

しかし、長い間、感情を感じることを禁止してきた僕にとっては、このイメージを使ったセラピーは当初、かなり勇気がいるものでした。
実際、なかなか感情を感じることができず、涙を流すという体験までにはずいぶん時間がかかりました。
それが返って苦しくなり、カウンセリングに行く事が辛くなったこともありました。

それでも、カウンセリングを続けていこうと思ったのは、この時点では自分の中ではっきり答えが出ていた部分があったからです。
それは、「もう諦めたくない」という思いでした。
今までずっと「こんな自分でもしかたない」と思って生きてきたことがわかったのです。
そして何より、カウンセリングのアプローチは僕に少しずつでも変化をもたらしてくれていました。
だったら、やるだけやってみよう。だめだったら辞めたらいいじゃないか。
僕はここにきて、ようやく本当に自分が幸せになりたいと思えるようになっていたのです。

(7)一人でやらなくていい へ続く

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